1分で大切なことを伝える技術

1分で大切なことを伝える技術 (PHP新書)

1分で大切なことを伝える技術 (PHP新書)

ビジネスでも家庭でも,立場上,人を叱らなければならない場面がある.叱られる側も辛いが,叱る側もおもしろくはない.こういうことこそ,一分で,しかも有効な方法を工夫したい.
まず大前提として,叱るときは事実を突きつけることが条件だ.そこに,自分なりの解釈を差し込んではいけない.たとえば上司が部下に対し,「オレは気に入らない」「オレの流儀に反する」などと叱ると,部下は対応も反省もしようがないだろう.
そこで重要なのは,何が悪かったのかを紙に書いて整理することだ.事実関係を確認することにもなるし,自分の感情を鎮めることにもなる.私はこれを「注意メモ」と呼んでいる.
そのうえで相手と面と向かい,「注意メモ」を見ながら「これとこれは良くないね」と諭していく.また「どうしてこうなったのか?」と相手に発言権を与え,原因や弁明や反省の言葉を引き出す.それを前述の”図式”によって「注意メモ」に書込みながら問題点を絞り込み,「それならここをこう直さないと」という結論を導き出す.
そして最後に「注意メモ」の最大ポイントを赤で囲み,また同じ失敗を繰り返さないための対策,つまり「今後はこういう部分に気を付ける」とか「明日から○○を日課にする」といった部分を青で囲む.そこに今日の日付を入れ,「by○○」と自分の名前を書き込み,「これでもう大丈夫だな」と相手に渡す.これならざっと1分で終わるし,お互いにあと腐れもないだろう.
それに「注意メモ」は手書きだから,ちょうど手紙のように,いいコミュニケーションツールになる.

褒める視点として重要なのは,結果ではなくプロセスで評価するということだ.
たとえば子供が部屋を片付けたとき,「部屋がきれいだね」と褒めるのと,「片付け上手だね」と褒めるのとでは微妙に違う.「片付け上手」には誇り高さが感じられる.もっと「上手」になろうというモチベーションが生まれる.これが「褒める」ということの意味である.
同様に,なかなか人目につかない部分で頑張っている人,誰かがやらなければならない面倒な仕事で苦労している人も,十分に評価する必要がある.「誰かがしっかり見て,感謝しているんだよ」というメッセージを送るわけだ.

英語圏の人,特にアメリカ人は言葉のサービス精神が旺盛だ.英語には誉め言葉に相当するボキャブラリーがきわめて豊富である.
手を軽く打ちながら,「Oh, It's Great !」「Cool !」「Fantasutic !」「Unbelievable !」「Good Job !」など.

「You can do it !」とは,じつにいい言葉である.人を励まし,讃え,心をポジティブにさせる.日本語にすれば「君ならできる」,あるいは「信頼している」「お前を見込んで任せる」といったところだろうか.
ただし,この日本語のニュアンスでは「やるだけやればいい」というメッセージとも受け止められる.それは同時に「自分なりによくやった」とか「この程度で十分だろう」という甘えや勘違いを生む恐れがある.つまり,励ますことがかえって仇になりかねないわけだ.
今の日本人にとって必要なのは,これとは逆の「粘り」だ.逆境に直面した時,もうひとふんばりして乗り越える力こそが求められている.その際の言葉として,「You can do it !」は最適だ.