仕事が嫌になったときに読む本

仕事はわれわれにとって何であろうか.事に仕える,事とは人と物に関するものである.社会生活を営んでいる以上,事に仕える,すなわち仕事をすることは当然のことである.
仕事とは,われわれの生活を支えるお金を稼ぐものであることを確認したい.つぎは,仕事はわれわれの能力を発揮する場である.趣味でいくら能力を発揮しても,所詮,遊びの上であるから,だれも高く評価してくれない.そのつぎは,仕事はわれわれと地域社会の結びつきである.
われわれは,自分を育ててくれた地域社会に仕事を通じて恩返しをすることになる.一人一人が一生懸命働く会社は,さらに利益を通して貢献することができる.

叱られたら,母親のようにかわりいから叱ってくれると考えよう.これは真実である.もう,見込みのない人間はだれも叱ってはくれなくなってしまう.
とにかく,どんな叱られ方でもよいではないか.表面にあらわれている現象に気をとられていてはいけない.大切なことは何について,なぜ叱られたかである.自分はそのことを素直に受け止めればよいのである.
叱られたら「成長のチャンスを与えてくれてありがとうございます」と感謝する気持ちをもっていれば,人の意見もどしどし吸収されるだろう.
また,叱る人の立場になって,どんな叱られ方がいいか考えてみる余裕もほしい.叱っていても気持ちがいい人間にならなくてはなるまい.素直で真剣に受け入れ,同じことについて二度と注意する必要がないと思われるようになりたい.素直で暗さがなく冷静であること.間違ってもふてくされたり,ふくれたりしないことである.
とにかく,叱られることを避けようとしてオドオド仕事をしていても,仕事が面白いわけがない.のびのびと仕事に向かい,のびのびと叱られるとよい.
しかし,叱られる際どうして叱られているのか理由がわからないようではプロとはいえない.

自分より上の人の欠点が見えるときは,自分の能力が伸びているときなのである.その逆に,上の人のやっていることが全部よく見えるようでは,とてもじゃないが将来の見込みはない.
上の人のやっていることがみんなよく見えていては,上の人を追い越すことはまったくありえない.上の人のやっていることを冷静に見るためには,まず,自分が上司だったらどうするか,常に考えてみるとよい.

群れるのが好きな人間は,他人のウワサ話を好む.たいした仕事をしてなくても「ストレスがたまった」と言っては飲みに行き,上司の悪口をぶちまけて溜飲を下げる.じつに非生産的で,おもしろくもない.
しかし,こういう連中のまき散らす悪評には,案外使えるネタが転がっている.封印されていた事実まで明るみに出る.大切な自分の時間はつぶれるが,それでつきあいを悪くしていては,絶対に損になる.仕事帰りの飲み会は貴重な情報収集の場でもある.
ただし,こういう同僚とつるんで悪口に熱中したりしてはいけない.

挑発されても,腹を立てる素振りを見せてはいけない.痛くも痒くもないと言わんばかりに,にこやかに笑みを浮かべ,相手への質問で切り返してやればいい.
相手がいくら厳しい口調で挑発しても,内心の苛立ちや焦りは抑えて,冷静に問いかける.
「どこがまずいと思ったのか,もう少し詳しく説明していただけますか?」
「おっしゃることがわかりにくいのですが,なぜこの案ではうまくいかず,考えが甘いと思われますか?」
といった具合に,質問を投げ返してやるのだ.
会議の出席者は,明るくて友好的な口調のこちらを好ましい目で見る.相手の挑発するような口調と対照的で,圧倒的な差がつく.こちらは大人で知的,ライバルは子どもっぽくて心の狭い人間,という印象を与える.実際にはどんなに動揺していようと,口調や表情を明るくし,友好的なふりを装うのが得なのだ.
むきになって自分を貶めるのは,したたかな人間のやることではない.

上司の無理な命令に,正面きって刃向かうなんて愚かしい.生意気な奴だと目をつけられ,疎んじられるだけ.出世の妨げになる.
相手の言葉を肯定して安心させ,油断している間に,こちらの主張を通してやろう.
「はい」「おっしゃる通り」など,まず最初に相手の言葉を肯定することだ.相手は気分がよくなるので,その後は自分の言い分を通しやすくなる.
相手の話を熱心に聞くふりをして同調するように相槌を打ち,相手を肯定する返事をしておいて,すぐ反論する.定番の説得方法であり,うまく活用すれば,反論してると気付かれずに要求を飲ませることができる.

どんな会社にも,嫌な奴の一人や二人はいる.どうにも鼻について仕方ないときは,冗談めかして,相手の本性をついてやるといい.
明るい口調で,冗談のようにさらっと言う.相手がムッとした顔をしても,すかさず「冗談だよ,アハハ」と笑って逃げてしまうのだ.

社会人としては,どんな嫌な人にも敬語を使わねばならない.心の底から軽蔑する相手でも,マナーとして相手を立て,謙虚にふるまうふりをする必要がある.
そこでどうせなら,敬語で嫌な人をあしらおう.失礼のないようにふるまっているふりをして,「それ以上,近づくな」というサインを出す,便利な方法なのだ.

仕事ができる有能な人間ほど,何でもかんでも仕事を抱え込んだりはしない.とくに,多忙を極めるスケジュールなのに,上司が急な仕事を指示してきたとき,自分の普段の業務とさほど深い関わりの無い内容なら,その仕事にふさわしい人材として同僚を推薦すれば,波風立てることなく自分の仕事を減らせる.
誰もが納得するように表面を取り繕いながら,自分に都合のいい結果を引き出すのが賢い方法だ.
同僚を推薦するためには,自分では力不足だと謙遜するといい.ただし,決して「できない」と言ってはならない.それでは無能だと言っているようなものだ.

できなかったことを叱ったり注意したりするのではなく,まずできたところまでをきちんと認める.「それは,僕にはできない」と,自分を少々落として褒めるだけで,相手は俄然,やる気になるものだ.
「よく勉強してるね.僕の若いときはそんな余裕はなかったのに.ところでそれをどう実践に生かす?」などと問いかける.まずは褒めておき,その先まで思考を進めないと,仕事にならないことを暗示するのだ.
「集中力もあって,根気もある.僕には真似できないことだ.ほかの仕事も同じようにできると,もっと助かるね」ぐらいに励ましつつ,ハッパをかけるのだ.