出光佐三語録

久しぶりの出張で,新幹線車内で読みきれた.

士魂商才の経営者 出光佐三語録

士魂商才の経営者 出光佐三語録

どうかこの子を頼みますと言われたときに,私はそのお母さんに代わって,この子を育てましょうと思って,引き受けた.その母の愛を受け継いだ私は,これを実行に移した.これが家族温情主義と言われるのである.
育てようという子供は辞めさせない.これが首を切らないということになった.もちろん,家庭に出勤簿なんかありえない.労働組合も要らない.子供が妻帯すれば,家賃も嫁の生活費も孫の手当てもやることになるから,給料なんかも,しぜん生活給となる.お母さんはどこまでもお母さんであって,子供の喜怒哀楽に対してもお母さんらしくあるようにしているだけのことである.これを要するに,愛情によって人は育つという一言に尽きると思うのである.

家族肉親の愛は最高のものです.学問や理論や哲学で説明できません.あらゆるものを超越した人間の基本的あり方です.そういう愛情を基礎にしたものが家族温情主義です.その家族温情主義に育てられれば,人間として素直で真面目な人ができる.そういう人がお互いに信頼しあって全体をつくり,そして鍛錬されれば,これは人間として最高のあり方です.それが少数精鋭となった最大の力を発揮するわけです.
少数精鋭主義を唱えて,出来の悪いものを首切るのは,真の少数精鋭ではなくて利己主義です.十人の子供がいれば,一人や二人はできの悪いのがおります.それをひっかかえていくのが家族温情主義です.

愛とは何か? ただ頭をなでてやることか? そうじゃありません.何も言わないでいいから,相手の立場になって考えてやる,というのが愛です.
とりわけ,母親の子に対する愛はそういうものです.もっとも,この母親の愛だけで育った子供は純情ではあるが,実行力では不十分です.だから,今度は父の愛によって鍛錬し,実行力を養い,ほんとうに人間の尊重をうちたてていけるような人にしていかなければならないのです.

私の父は私に「働け,働け」といって,怠けたら非常に叱られた.「働け,そして質素にせよ.贅沢をするな.働いて,自分に薄く,その余力をもって人のために尽くせ」と言われた.この父の教えが,私の会社のいまのあり方になっているのです.一生懸命働いて,経費の面でも徹底的に合理化して,消費者のために尽くすという私の会社のあり方は,私の両親の教えから生まれておると思うのです.

私は独立自営ということで出発したのであるが,私自身が独立自営する,それは結構であるけれども,それでは多くの店員は,私の独立自営のための犠牲になっておるのか.私のために搾取されておるのか,というような疑問が起こってきた.
店員も,店の方策の範囲内で独立させればいいじゃないか.
そして出光そのものは国家・社会のために働いておれば,店員もおのずから国家・社会のために働いて,しかも独立しているというkとになるではないか.それには店員を自由に働かせるようにすればいいではないか,という結論に達した.