孫子

世界一わかりやすい「孫子の兵法」 (PHP文庫)

世界一わかりやすい「孫子の兵法」 (PHP文庫)

国民の力を集めるとは,ただ単純に「その能力を集める」ということではない.集めるべきは,国民の心.意思の力じゃ.そのためには,ふだん,いかにその国の政治が国民のためになり,国民に喜ばれておるか.そこが決め手となる.この国のふだんの生活を失いたくない.この国をそのままに,自分の子ども達孫たちに残してやりたい...と,国民の一人ひとりがそう思える政治が,ふだんから行われておらねばならぬ.国民は,国のリーダーのために戦うのではない.自分と自分の家族,自分の子孫のために戦うのじゃ.

どんな手柄を立てたら,どんな褒美をどれくらいやるのか.どんな違反をすると,どんな罰を受けるのか.具体的にキチッとした取り決めがなければならぬ.当事者というものは必ず,自分に都合の良いように勝手な解釈をする.当然,揉め事の元となる.そうした揉め事が,さらに不満を増大させる.

戦争はスピーディに進めることを,まず心がけよ.兵士たちの一人一人が,戦いに先立って肝に銘じておくことじゃ.人間というやつは,ふだんの実力以上にパワーを発揮するぞ.戦費の負担という金の問題面で考えても,兵士のメンタル面ということで考えても,戦争は,速やかに進めるを目指す事が,じつに肝要じゃというわけじゃ.

「こういう君主だと戦争は負けるぞ」といったパターンじゃ.進軍・退散に対する君主の口出しは軍を束縛する.招聘の抜擢やら処罰やら,あるいは編成の変更やら,いわば「軍内の政治」というものに君主が口を出す.どの部隊を進めるか.どの部隊を待たせるか.そういった用兵に君主が口を出す...国のリーダがこうした口出しをすれば,軍内に迷いや疑いが蔓延する.

戦場での策といったものは,守るにしても攻めるにしても,効果的なパターンなどわずかなもの.しかし,その組み合わせの工夫次第で,幾らでもバリエーションを広げられるのじゃ.名将とは,そうして次々と新戦法を生み出すわけよ.そして,攻撃のどんなときもタイミングを外さない.「ここぞ!」というときに,一挙に軍を動かす.これが名将じゃ.

戦争を勝利に導く名将とは,兵士の”個人的な努力”ばかりをあまり当てにせん.兵士個々の「自主性」を,それほど頼みにしないのじゃ.それよりも,軍全体の勢い,集団としてのパワーを導き出すのじゃ.軍全体に勢いがつけば,個々の兵士たちもそれに”乗って”くる.一人一人に「戦え」と命じずとも,自然と勇敢に戦ってくれる.

無理に「弱点を隠す努力」をせんでもよい.弱点の周囲をカバーすることに力を入れるのじゃ.この弱点を攻められたら一時的に”負けの状態”になるだろう.ただ,タダではやられぬ.こちらは,周りからその敵軍を攻撃するだけして,敵に大ダメージを食らわせてやる.