海賊とよばれた男(上)

「融資が受けられないのは,なぜなのかわかるか」
「君の真心が足りないからだ.至誠天に通じるという.君が本当にラジオ修理の事業に命をかけて取り組む気概があるならば,そしてその事業に利益が出るという信念があれば,その思いは必ず伝わる.そうではないか」

「国岡はん,六千円は君の志にあげるんや.そやから返す必要はない.当然,利子なども無用.事業報告なんかも無用」
「ただし,条件が三つある」
「家族で仲良く暮らすこと,そして自分の初志を貫くこと」「ほんで,このことは誰にも言わんこと」

「でも,鍛造さんのやり方ば見とりますと,時間がかかります.子どもたちが間違うたら,考えさせる前に,こうやるとよかと正しかやり方ば教えるほうがずっと早かじゃないですか」
「それでは自分で考える力が付かんたい.自分で工夫して答えば見つけることが大切たい」
「ぼくの指示ば,ただ待っとるだけの店員にはしとうなか.大事な商いばいちいち本店に伺いば立てて決めるごたる店主にはしとうなか.自分で正しか判断ができる一国一城の主にしたか」

さらに他店を驚かせたのは,国岡商店の支店長には支店の商いのいっさいの権限が与えられていたことだ.本店の店主である鍛造は支店のやり方にはいっさい口出ししなかった.任せたとなれば,全権を与えなければならないというのが鍛造の信念だったからだ.それが店員への信頼であり,それだけの教育をしてきたという自負があった.むしろ,いちいち本社にお伺いを立ててくるような店員では使いものにならないと考えていた.

「わしは前にも言うたやろ.お前が何もかも失ったら,わしも一緒に乞食をする,と」