- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1999/02/10
- メディア: 文庫
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日本の総司令部にとっても,戦術上もっとも拙劣とされる,「兵力の逐次投入」というものをやりはじめたのである.
専制国家は滅びる.二流もしくは三流の人物(皇帝)に絶対権力を持たせるのが,専制国家である.その人物が,英雄的自己肥大の妄想をもつとき,何人といえどもそれにブレーキをかけることができない.制度上の制御装置をもたないのである.
日本海軍の理性はこれらの新品軍艦の練度の期間まで計算に入れたことであり,この計算も要素になって開戦の日が決定されている.皇帝の気分によって侵略の火遊びと戦争が決定されるロシアとは驚くべき違いがあった.
人類に正義の心が存在する以上,革命の衝動はなくならないであろう.しかしながら,その衝動は革命騒ぎは起こせても,革命が成功したあとでは通用しない.そのあとは権力を構成してゆくためのマキュバリズム(権謀術数)と見せかけの正義だけが必要であり,ほんものの正義はむしろ害悪になる.
絵心のある真之は日本の風景は水蒸気がつくっていると思っており,この風景の感情的表現は油絵の絵の具では至難であると考えた.