情緒と情熱

人間の建設 (新潮文庫)

人間の建設 (新潮文庫)

欧米人には小我をもって自己と考える欠点があり,それが指導層を貫いているようです.いまの人類文化というものは,一口に言えば,内容は生存競争だと思います.生存競争が内容である間は,人類時代とはいえない,獣類時代である.しかも獣類時代のうちで最も生存競争の熾烈な時代だと思います.ここでみずからを滅ぼさずにすんだら,人類時代の第一ページが始まると思います.たいていは滅んでしまうと思うのですけれども,もしできるならば,人間とはどういうものか,したがって文化とはどういうものであるべきかということから,もう一度考え直すのがよいだろう,そう思っています.それはおもしろく楽しいことだと思うのです.「考えるヒント」というのはそのひとつだと思います.人はそういうことを考えると,ほのぼのとおもしろくなるはずです.人に勝つためにやるというような考えは押さえないと,そのおもしろさは出てこないですね.

情熱を形に現すという働きが大自然はあるらしい.文化はその現れである.数学もその一つにつながっているのです.その同じやり方で文章を書いておるのです.そうすると情緒が自然に形に現れる.つまり形に現れるもとのものを情緒と呼んでいるわけです.
そういうことを経験で知ったのですが,いったん形に書きますと,もうそのことへの情緒はなくなっている.形だけが残ります.そういう情緒がまったくなかったら,こういうところでお話しようという熱意も起こらないでしょう.それを情熱と呼んでおります.

今度は小林秀雄の作品をユックリと読んでみたいですね.