- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/10/28
- メディア: 文庫
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この圧倒的な壁を前にして,登るための一歩を踏み出せるかどうかは,勇気の問題である以上に自分の力量に対する信頼の度合いによる.自分の力量を信じられたとき,押しつぶされそうになる恐怖に耐え,一歩を踏み出すことができるのだ.しかし,功名心をエネルギーにしているようなクライマーは,本当に巨大な壁を前にしたとき,そこに取り付こうという一歩が出ない.
それは頂上に登った瞬間の達成感を欲しているからだろうか.いや,そうではない,と山野井は思う.頂上に登った瞬間ではなく,頂上直下を登っている自分を想像するとたまらなくなるのだ.間近に頂上が見えている.そこにはまだ到達していない.しかし,もうしばらくすればたどり着くだろう.そうした中で,音を立てて吹き付けてくる強い風の中を,一歩一歩登り続けているときの昂揚感は何にも替えがたいのだ.
自転車で「ヒルクライマー」と呼ばれる人たちも同じなんでしょうか??